「gradはわかったわ。じゃあdivって何なの?」
「divは英語で発散を意味するdivergenceの略だ。湧き出しと言ってもいい。これは今度はベクトル場に対して定義される。簡単に言うと、ベクトル場の各点で、どれだけの量がそこからわきでているか、を表すスカラー量だ。」
「それだけでわかったら苦労しないわ。簡単に言うと、ってあなたが楽しただけよね。こっちからしたら簡単じゃないわ。」
「水蒸気が流れている様子を考えよう。そしてその中の一点を考えよう。一点といってもほんとに点では考えられないからその近傍に小さく直方体を考えることにする。」
「ここでの水蒸気の速度を考えてみよう。各点各点で水蒸気の速度ベクトルA(x,y,z)が”埋まっている”。ということはこれはベクトル場の例になっている。」
「ここで、このすごく小さい直方体に入ってくる蒸気の量を考えよう。」
「今からこの直方体にどれだけ水蒸気が入って、どれだけが出ていくか、その収支を考えたい。出ていく量のほうが多ければ多いほど、この直方体からわきだしている、というイメージが強くなるね。まず、左側から入ってくる量は\(A_{x}(x, y, z) dydz\)とかける。」
「ベクトルAの要素の中でも\(A_{y}(x, y, z)\)や\(A_{z}(x, y, z)\)はdydz面に平行で直方体内に入ってくる量には関与しないから無視したわけね。」
「その通りだ。ちなみに今はdyやdzが微小量としているから\(A_{x}(x, y, z) dydz \)というかんじにdydz面内でベクトルは一様としているわけだけど、考える面Sがもっと広ければ積分が必要になる。各点ごとの法線ベクトルをnとして\( \int_S A_{x}(x, y, z)\cdot n dy dz\)とかける。これは今微小な面で考えた場合の寄せ集めだね。一般にこういう、ベクトル場と曲面の法線ベクトルの内積をとって曲面上で積分するのをベクトル場の面積分という。まさに流体の中の面を流体がどれだけ通過するかっていうイメージだね。」
「話を微小直方体に戻そう。同じようにして出ていく量も考えると、\(A_{x}(x+ dx, y, z)\)となる。この差がどれだけこの直方体に入ってくるかを表す量だ。一般的にほかの面での出入りも考えて結局その点でのわきだし量はこうかける。」
\begin{aligned}
&\left\{A_{x}(x+dx, y, z)-A_{x}(x, y, z)\right\} d y d z\\+&\left\{A_{y}(x, y+dy, z)-A_{y}(x, y, z)\right\} dz dx \\
+&\left\{A_{z}(x, y, z+dz)-A_{z}(x, y, z)\right\} dx dy \\
=&\left\{\frac{\partial A_{x}}{\partial x} dx\right\} dy dz+\left\{\frac{\partial A_{y}}{\partial y} dy\right\} dz dx+\left\{\frac{\partial A_{z}}{\partial z} dz\right\} dx dy
\end{aligned}
「あ、えっと、イコールでつないでいるけど、厳密には、またいつものように微小量の一次までをとっているのね。」
「そうだね、ここで、dxdydzが直方体の体積だね。いわば直方体のとりかたに依存する。だけど、その前の比例係数は直方体の取り方に依存せずに決まる、その点でのわきだしの強さを表す量だ。ちなみにさっき2次以上の項を無視したのは体積dxdydzでわってdxやdyやdzに関して極限をとると消えてしまう項だからだ、ということもできる。まあそんな細かい話は置いといて、この比例係数がdivAと書かれる量だ。日本語では発散といったりする。」
$$\rm{div} A=\frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}+\frac{\partial A_z}{\partial z}$$
これはスカラーだね。さっきのgradはスカラーfからベクトルを出したけど、このdivはベクトル場から導かれたスカラー量であることに注意だね。」
「まだ少し、入ってくる量と出ていく量が違うってどういうことかわからないわ。だってそんなことが起きたら何か保存則みたいなのに反する気がするけど。だってもし入ってくる量より出ていく量の方が多かったら水蒸気の量が増えることにならない?」
「ひとつ見逃していることがある。直方体の中の蒸気量だ。入ってくる量と出ていく量が違ったとしても、直方体内にその分直方体内に蒸気がたくわえられていれば、蒸気量の保存には問題ない。微小直方体での蒸気量の単位時間当たりの変化は、そこでの水蒸気の密度を\(\rho\)とすると\(\rho dx dy dz\)とかける。だから、もし仮に、ここでの水蒸気のような、ベクトル場をつくっている媒質の量が保存するという仮定をおくと、
\(\frac{\partial \rho}{\partial t}+\rm{div} A =0\)
と書ける。これは一種の保存則だ。これを連続の式っていう。別の言い方をすればベクトル場で保存則を表した数式表現だ。量子力学なんかでは、直観的に密度や粒子密度の流れというものはどう定義すべきかそれほど明らかでない中で、この式を満たすようにそれらを決めなければいけなかったりする。」
「他にどんなのがベクトル場の例としてあるの?」
「物質が流れているときの速度をベクトルとしたベクトル場というのは典型的なベクトル場の例だけどそんなベクトル場というのはベクトル場の中のほんの一例だ。他にも例えば電荷が存在するときの電気力線を考えてみよう。」
「この電気力線をベクトルとしたベクトル場は、電磁気学で重要だ。ここでプラスの電荷のある点では電気力線がわきだしている。電気力線というのは何かを媒質として流れているんじゃなくて、電荷が空間に作り出している力をベクトルとしてあらわしたものだから、その点でさっきの水蒸気の例とは根本的に異なる例だ。」
「なるほどね。別に電荷分布が動かなくてもベクトル場が存在しているものね。じゃあ、さっきの場合の発散は密度変化と対応していたわけだけど、今の場合は何と対応するの?」
「それは電荷密度だ。また電磁気のところでやるけど、電気気学の基本方程式のmaxwell方程式によれば電荷密度と電場との間にはこんな関係がある。」
$$\rm{div} E(x)=\frac{\rho}{\epsilon_0}$$
「ここで\(\epsilon_0\)というのは真空の誘電率という定数だ。要するにベクトル場の発散と電荷密度\(\rho\)が比例関係にあるということが重要だ。」
「なるほどね、つまり\(\rm{div} E(x)\)がわかれば電荷密度がわかるのね。まあたしかに上の図からもそんな感じはするね。電荷のあるところで電気力線がわきだしているものね。」
「話を数学に戻して少し具体的に計算してイメージをつかんでおこう。2次元で考えれば十分だ。例えばこんなベクトル場はどうだろう。」
$$A(x,y)=\left( \frac{x}{r},\frac{y}{r}\right)$$
これはちょうど各点で原点と反対方向に単位ベクトルが向いているようなベクトル場だね。このときの発散を求めてみよう。
$$\rm{div} A = \frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}=\left(\frac{1}{r}-\frac{x^2}{r^3}\right)+\left(\frac{1}{r}-\frac{y^2}{r^3}\right)=\frac{1}{r}$$
「これが正なのはこう考えてもわかるね。半径によらずでていく強さが同じということがポイントだ。半径1の円からでていく量がπに対して半径2からでていく量は4πということからもわかるように、わきだしが存在するから発散が正になっているんだね。」
「そう考えるともしベクトル場が\(A(x,y)=\left( \frac{x}{r^2},\frac{y}{r^2}\right)\)だったらちょうどつりあいがとれて発散が0になって、\(A(x,y)=\left( \frac{x}{r^3},\frac{y}{r^3}\right)\)だったら発散が負になる?」
「その通りだよ。実際に計算してみれば確かめられるよ。」
「あと、もしこのベクトル場が電場だとすると、さっきの式から(x,y)には定数倍を除いて\(\frac{1}{r}\)の電荷が存在するということになるわけね。」
「そうだね。じゃあ次の場合はどうだろう?」
$$A(x,y)=(-x/2,y/2)$$
「\(\rm{div} A = \frac{\partial A_x}{\partial x}+\frac{\partial A_y}{\partial y}=0\)となるわね。」
「そうだね、全平面でわき出し量は0だ。これは何を意味するかというと、このベクトル場はただくるくる回っているだけで、外へは出て行っていないということだ。だからわき出し量はない、というのは自然だね。」
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